人材育成~人事は忙しいのである~

「ちょっとマナーがなってないけど研修でなんとかなるかな」
結局ずっとなんともならないのである。

「OJTで鍛えればすぐに覚えるだろう」
現場はそんなに丁寧に教えてくれないのである。

「なんであんなヤツ採用したんだ?」
と言われることはあっても、
「いや~、いい人を採用してくれてありがとう」
とはなかなか言ってもらえないのである。
人事は孤独なのである。

現場からは
「人が足らない!」
と言われ、上からは
「人を雇う余裕は無い!」
と言われ、なのにいきなり「急募で!」とか、まったく勝手なものである。

期待していた人材は辞めていき、密かに辞めて欲しいと思ってる人材は、今日も元気に社内の輪を乱しているのである。
とにかく人事は忙しいのである。

    どうやって育てる?

    人材育成と聞くと、新人研修とOJTがポピュラーなとこだが、時間が無くてすぐにOJTというパターンも多い。

    まずは新人研修について考えてみよう。
    社内規定、部署の説明、モノのあるところ、使い方などなど、説明することは多々かもしれないが、新人研修の目的は「会社の社会的な存在意義」と「採用された理由(目的)の理解」である。
    企業理念を正しく伝えて、「その達成のためにあなたは採用されたのだ」ということをしっかり理解してもらうのが新人研修の趣旨だ。
    そのためには、人事がまず企業理念を理解していなければ話にならない。理念と現実がびっくりするぐらいかけ離れていたとしても、だ。

    そもそも理念と現実の乖離のことを“課題”というわけで、会社とは、仕事とは、この課題を解決することである。
    その達成のために人材を投入して日々の業務を遂行するわけだから、企業理念は絵に描いた餅ではない。
    まずは企業理念を熟考して新人に分りやすく説明できること、納得を得ることから始めよう。

    次にOJT。
    ちゃんと定義がある。
    「意図的」で「計画的」で「継続的」であること。
    これがOJTの定義だ。
    場当たり的に仕事を教えるのはOJTではない。
    ・何を理解させようとして、何を気づかせようとして教育するのか?
    ・その理解と気づきを促す教育は順序立てて用意されたものか?
    ・入社すぐ、3か月後、6か月後、12か月後と、成長を計れる教育になっているか?
    これらが含まれて初めてOJTである。

    なぜ新人が辞めていくのか?

    苦労して獲得した人材があっさり辞めていくと、「あいつは根性がなかった」とか「向いてなかった」とか勝手なことを仰る方々とは裏腹に、人事は大慌てである。
    金銭的な損失も大きいし、採用計画も早急に見直さなければならない。

    「なぜ?」に対しては「一身上の都合で」なので、ほんとのところはさっぱり分からない。
    いっそのこと「あの人と合わない」とか「会社風土が変」とか言ってくれればいいのだが、皆さん美しく辞めていく。

    新人が辞める理由は人間関係だったり、体調不良だったり、よくランキングで紹介されるが、すべての裏側にあるのは「会社への帰属意識の欠如」と言える。
    入社してからまともに研修も受けずに現場に放り出されて、見様見真似で仕事を覚える側にしてみれば、育ててもらったという意識はゼロで、勝手に育った、というのが本音。
    会社への帰属意識が醸成されることは無く、だから辞めるのもためらいは無しといった感じ。
    辞める理由は多岐に渡っても、辞める根拠はここにある。

    新人の名前は「魔法の言葉」

    さて、最後に帰属意識向上の魔法の言葉を。

    新人の入社前に、社員全員に(契約社員も派遣もパートも)新人の名前を覚えておいてもらうこと。
    入社したら初日から「〇〇さんだね?よろしくね」「〇〇さん、頑張って」と、社内の人間から名前で呼び掛ける。
    これをやるだけで新人の帰属意識は一気に高まる。
    間髪入れずに新人研修、そしてOJT。

    その新人はきっと貴重な必要人材になるはず。

    writer : 桐原 清武
    厚生労働省認定キャリアコンサルタント。株式会社リクルートでキャリア開発に携わる。専門は人材採用・育成。人事担当者と求職者のカウンセリングは通算10,000回を超える。