中途採用~採用の歴史編~

あなたの会社はどんな面接を行っているだろうか?
志望動機と自己PRだけでは芸が無いが、かといって他に聞くことも無く、なんとなく世間話をして終わり、といった面接の場面も多い。

これから会社の未来を託す社員を採用するのだから、ここは一つカッコいい面接を心掛けたいところだ。
特に中途採用は過去・現在・未来に渡って経歴やスキルを聞き取る必要があるため、面接する側にもある程度の力量が求められる。

今回はそんな採用方法の歴史を辿ってみよう。

    1.ブランディング採用

    ブランディング採用とは、バブルが崩壊する1990年初頭まで日本で長らく用いられた採用方法で、新卒・中途限らず、「〇〇大学を卒業している」「〇〇の資格を有している」といった“ブランド”で採用を決める方法である。

    高学歴、難易度の高い資格を持った人材が売れまくった時代、個々の能力など気にせずに内定ラッシュであった。

    しかし、高学歴でもバカなやつは多数いるし、高難易度の資格を持っていても、まったく役に立たないやつもまた数多くいる。
    採ったはいいけど、「あいつ〇〇大学出たくせに」とか「〇〇資格ほんとに自力で取ったのか?」みたいなことが多発してしまう。

    2.ポテンシャル採用

    バブルが崩壊して間もなく、「学歴バカ」の認知度も相まって、幅を利かせていたブランディング採用からポテンシャル採用へとその方法が変化してゆく。
    学歴や経歴は一切考慮せず、その人の可能性(ポテンシャル)に賭けて採用するといった方法である。

    2000年頃まで使われた採用方法だが、このポテンシャル採用、かなりギャンブルである。
    「その人の可能性」って言ったって、どこをどう見ればそれが判るのか不明、やる気だけで採用になるのだから危なっかしくてしょうがない。

    結果的に、やる気と笑顔だけは立派だが全然仕事が出来ない人材で社内は溢れかえり、ブランディング採用より悲惨な事態に見舞われることとなる。
    採用が冷え込み、シビアに人を採らなきゃならない時代にはあまりにもお粗末な採用方法であった。

    3.スペック採用

    2003年以降、日本経済がやっと復興し始め、会社の業績も安定し始めると、これまで縮小均衡のためにバッサバッサと人を切り捨ててきたツケが回り、今度は深刻な人材難となった。

    業績は好調でもそれを支える人材がいない。
    そこで企業は慌ててスペック採用を開始する事となる。

    スペック採用とは、簡単に言えば「経験者採用」である。
    会社の理念に共感してくれた人材や、社内の雰囲気を高めてくれるといったトランスファラブル(転移可能な)スキルは無視して、「今すぐ何が出来るか」一本で採用を進めていくやり方である。

    会社への忠誠心やら所属意識といった組織作りには欠かせない要素をまったく加味しないので、当然社内は殺伐とした雰囲気となる。

    社内の雰囲気が悪くなると人が辞め始める。
    絶対に手放しちゃいけない人材が辞めていき、ついでにスペック採用した人材も他の好待遇な会社に惹かれて辞めていく。

    スペック採用は、仕事は回っても、組織としての機能を失ってしまう採用方法であった。

    4.コンピテンシー採用

    スペック採用の波乱が落ち着き、世の中が正常になり始めると、あらためて「企業の存在意義」や「人材の価値」が見直されるようになってきた。
    企業を、組織を形作るのは人であり、人材こそが企業の価値であるという考え方だ。

    なんでそんな単純なことに気づかなかったのかしら?と不思議に思うわけだが、ここでコンピテンシー採用が登場する(コンピテンシーの考え方自体はずいぶん前から存在している)。
    所説あるが、日本で初めてコンピテンシー採用を取り入れたのは、化粧品メーカーの資生堂だと言われている。

    解釈の仕方も説明も多岐に渡るコンピテンシー採用だが、簡単に言うと、「その人が達成した実績と、達成のために行った行動・工夫、考え方や価値観を具体的に言語化してもらう」面接手法のこと。
    「私は〇〇を達成しました。その達成のために〇〇、〇〇といった方法を取りました。その結果、自分の中に〇〇、〇〇といった価値観が新たに芽生えました」
    といった答え方になる。

    経験を具体的な実績として計ることが出来るし、その実績は偶然ではなく、どんな方法を用いて達成したのかを語ってもらうので、入社してからの仕事へのアプローチ方法も知ることができる。

    採用方法の歴史、いかがだっただろうか?

    特にコンピテンシー採用は中途採用には向いていて、「口だけ経験者」を見破ることができるし、未経験者の中途採用でも「これまで何をしてきた人か?」を、ある出来事、ある実績を通して具体的に知ることができる。
    おまけに達成した事柄について、考え方や価値観まで聞き出すので、ある程度人柄も計ることができる。
    しかも使い方は簡単で、「あなたのこれまでの経験をコンピテンシーで話してください」とクールに伝えるだけだ。

    何だかカッコいいぞ、コンピテンシー。
    さあ、明日の面接からは早速コンピテンシーだ!

    writer : 桐原 清武
    厚生労働省認定キャリアコンサルタント。株式会社リクルートでキャリア開発に携わる。専門は人材採用・育成。人事担当者と求職者のカウンセリングは通算10,000回を超える。